Media & Music Writer Review

大前多恵 / ライター

この世に愛をテーマにした音楽は無数に存在しているし、大きな意味ではそのほとんどが何らかの愛を歌っている、とも言える。だが、『L-エル-』ほどの壮大なスケールを持つ大河小説を用意して、どこまでも深く徹底的に愛の本質をえぐり取ろうとする野心作は、そう存在するものではないだろう。100ページにも及ぶ紙幅を費やし、コンセプト・ストーリーとしてyasuが描いた少女Lの人生が、いわゆるハッピー・エンディングではなさそうなことは、リリースに先立って行われた試聴会のダイジェスト映像からだけでも充分に読み取れた。Lが味わった恥辱、苦しみを想像するだけで胸が痛み、やがて悲しみが訪れる予感を抱きながらアルバムの曲を順に聴き進めると、LとLを愛する少年の初々しい恋の場面の明るさすら、むしろ切なさを増幅させ、切なくなった。
先行シングル「INCUBUS」のほか、「Greed Greed Greed」や「君がいない、あの日から…」といった既発シングル群も違和感なく溶け込んでいるどころか、予めこの物語の一部として誂えられたかのように新たな存在感を放っていることに、ただただ驚く。「黒猫~Adult Black Cat~」の直前に、酒場の気怠いざわめきを思わせるSE的インターミッション「~Le Chat Noir~」を盛り込んでいるのも粋だ。全13曲14トラックで織り成す構成がとにかく素晴らしく、恋のはじまり、疑い・恐れの芽生えを経て、相手を受け入れ、同時にそんな相手を愛した自分の人生をも肯定するに至るまでの、あらゆる愛のプロセスを曲に表し、人生そのものの本質に肉薄。そして何よりも感動的なのは、たとえどんな切ない結末を迎えようとも、出逢いの奇跡に感謝し、歓喜するフィナーレを用意していることだ。ドロドロと淀んだ闇に顔を突っ込まれるような感情も味わうが、最終的には光を感じ、救いを信じることができる展開に、yasuの人間性を見た気がする。末筆になるが、サウンドはいつにも増してシャープで粒立っており、yasuの唄声は艶と透明度を増し、耳を、心を捉えて離さないことを書き添えておく。3年の待ち時間が帳消しになる、破格の名盤が生れた。